「カタクチが高い」というお話を、ここ数年ずっとうかがっています。
カタクチイワシの煮干しは、日本の煮干しの中心にある魚です。中心にあるものが上がると、献立も原価も一度に揺れます。この記事では、なぜカタクチだけが特別なのか、そして何になら替えられて、何には替えられないのかを書きます。
カタクチイワシは、ここ数年ずっと不漁です
まず事実から。カタクチイワシの煮干し(いわゆる煮干しいわし)は、ここ数年不漁です。
天然の魚ですので、獲れない年が続けば値は上がります。私どもの努力とは関係のないところで動きます。そして煮干しは、獲ってから茹でて干すまでのすべての工程に燃料代と電気代がかかりますので、原料以外のところからも押し上げられています。
いま代わりになっているのは、平子煮干しです
いっぽうで、平子煮干しは豊漁です。品質のよいものが、手当てのつく形で揃っています。カタクチが取りにくくなっているこの数年、当店がいちばんおすすめしているのがこの平子です。
平子はマイワシの小さなものです。カタクチとは別の魚ですので、同じ味にはなりません。ただ、癖が少なく、上品なだしが出ます。カタクチの強さを求めておられる場合には物足りなく感じられるかもしれませんが、澄んだだしを取りたい場面では、むしろこちらのほうが向くこともあります。
うるめ煮干しという選び方
うるめ煮干しも、カタクチの代わりに挙がる魚です。
ただし、うるめはもともと好んでお使いになる地域がある魚です。「カタクチが高いから仕方なく」ではなく、はじめからうるめを選んでこられた方が一定数いらっしゃいます。そういう魚ですので、代替品というより、もうひとつの本命だとお考えいただくほうが近いと思います。
脂が乗った年は、節という手があります
これは煮干しの世界で少し面白いところです。
脂の乗った魚は、煮干しには向きません。酸化して匂いが出やすいためです。ところが同じ魚を燻製にして、いわし節やうるめ節にすると、逆に美味しさが増します。
当店では、脂が乗ったものは煮干しではなく節として仕入れています。理屈をきれいに説明するのは難しいのですが、脂だけでも、燻製だけでも、この味にはなりません。
ですので、「カタクチの煮干しが高い」という場面では、煮干しの中だけで探すより、いわし節・うるめ節まで含めて見ていただくほうが、選べる幅が広がります。
合わせるという手もあります
一種類で決めきらず、何種類かを合わせるやり方もあります。さば節・宗田節や焼きあご・あご煮干しを組み合わせておられる方は多くいらっしゃいます。
合わせておくと、ひとつの魚の相場が跳ねたときに、受ける影響が薄まります。味づくりの話ではなく、仕入れの話としてそういう性質があります。
替えるときは、一度に全部を替えないでください
これはお願いに近い話です。
煮干しを替えると、だしの出方が変わります。まずは一部を置き換えて、いつもの取り方で出方を確かめてください。いきなり全量を替えて、後から戻せないほうが困ります。
当店は小ロットからお出ししています。試していただいてから決めていただくために、そういう出し方をしています。
ただし、替えが効かない場面もあります
正直に書いておきます。
煮干しの好みは、地域によってはっきり分かれています。大きなサイズのカタクチが好まれる地域、うるめが好まれる地域、白タレが好まれる地域。伝統的な棲み分けができています。
長くその味で商売をしてこられたお店では、魚を替えること自体が難しいことがあります。そういう場合は、無理に替えるのではなく、同じ魚の中でサイズや産地を見直すほうが現実的です。
サイズと産地で、同じ魚でも変わります
小さな煮干しは、頭を取らなくてもエグミが出にくい魚です。逆に大きな煮干しは、頭とはらわたを取ったほうが良いだしが取れます。大きいものほど味が強く、小さいものほど上品、という捉え方をしていただくと分かりやすいと思います。
産地にも性格があります。
長崎産は煮干し市場に出して競りにかけられるため、見た目を重視して煮込みが弱い傾向があります。牛深産は基本的に市場を通さず、炊きが強いぶん腹が割れたり見た目が悪くなりがちですが、炊き時間が長い分、味は強く出ます。大分産は瀬戸内に似た白タレが作られ、外海に近いぶん脂のノリが少ないことが多い魚です。生産量は多くありません。氷見産はすっと痩せ型で、値は張りますが味がよい魚です。瀬戸内産は脂が乗りやすく、選ばないと酸化臭のあるものが混ざります。秋以降は脂も抜けますので、当店はそのあたりを仕入れています。
当店の買い方
ひとつだけ、当店のやり方を書かせてください。
魚は雨が降った後は沖に逃げます。そして餌を食べに帰ってきた魚は痩せていて、脂が少ない。この魚が煮干しに向きます。当店はその時期を狙って買い入れています。
時期によっては、大きくても脂が少なく、良い煮干しが作れることがあります。そういうものが出たときに手当てできるかどうかが、私どものような小さな会社の仕事です。





