煮干しを選ぶとき、脂はまず気にされます
業務用の煮干しをお選びになる方は、たいてい脂を気にされます。
脂の多い煮干しは、臭みが出ます。腹のあたりが黄ばんでいたり、袋を開けたときに独特の匂いが立ったり。だしを引くと、その匂いがそのまま一杯に乗ります。
ですから、煮干しの世界では脂は敬遠されます。 脂が回って黄色くなった煮干しは、市場では安く出ています。平子煮干しにも、そういうものがあります。
実際に、脂の回った黄色い煮干しを使って繁盛されているお店もあります。ですから、良い悪いの話ではありません。
ただ、当店では扱っておりません。 色目がどれくらい強いのか、そしてどこまでなら許されるのか。その範囲が広すぎて、当店では線を引けないからです。
どこまでを良しとされるかは、お店によってまるで違います。当店で「これくらいなら」と決めてしまうわけにはまいりません。ですから、どなたがお使いになっても外れのない、脂臭くないものを選んでおります。
脂そのものが悪い、という話でもないのだと思います。ただ、煮て干しただけの煮干しは、その脂がむき出しのまま置かれることになります。時間が経つほど匂いが出やすくなるのは、そのためだと言われます。
ところが、節にすると話が逆になります
ここからが不思議なところです。
同じいわしでも、節にした場合は、脂の乗った原料のほうが美味しくなります。
長く扱っておりますが、ここは今でも不思議に思います。煮干しでは避ける脂を、節では選んで買っている。矛盾しているようですが、実際にそうなのです。
違いは、燻すかどうかにあるようです
煮干しと節の作り方を並べてみます。
煮干し ── 煮て、干す。それだけです。
いわし節 ── 煮て、燻して、干す。工程がひとつ増えます。
この「燻す」が入るかどうかで、脂の出方が変わります。
煮て干しただけの煮干しは、脂がそのまま臭みに出ます。ところが燻すと、その脂が旨みのほうへ回ります。理屈をきれいに説明するのは難しいのですが、炊いてみるとはっきり違います。
燻製という技術が、脂の多い魚に対して昔から使われてきたのは、おそらくこういうことなのだと思います。
だから、いわし節には脂の乗った平子を選びます
当店のいわし節は、熊本県牛深で作られています。原料は平子いわし(マイワシ)です。
そして、適度に脂の乗った平子を選んで使っています。 脂の少ない原料を燻しても、あの厚みは出ません。脂だけでも、燻製だけでも、この味にはならない。両方が要ります。
牛深でいわし節が作られ続けているのは、この二つを合わせる勘どころが、土地に残っているからだと思います。
折れが多いことも、書いておきます
火を入れて作りますので、いわし節は折れが多く出ます。写真のとおりです。
見た目は整いません。姿を見せる料理には向きませんので、そこはご承知おきください。だしを取る用途では、まったく支障ありません。
燻製香は、前に出過ぎません
「燻す」と聞くと、香りが強すぎるのではと思われるかもしれません。
いわし節は、鰹節ほど強く燻ってはいません。 燻製香が料理の前に出てくることはありません。魚の味を残したまま、角だけが取れた印象です。
煮干しの臭みが気になる、でも煮干しの力強さは欲しい。そういう場面に、いわし節が向きます。ラーメンスープ、うどん、そば、おでん、鍋。だしに存在感が欲しい料理です。
酸化防止剤は使っていません
当店のいわし節(牛深)には、酸化防止剤を使用しておりません。
脂の乗った魚ですので、そのぶん風味の管理が必要になります。当店では出荷する直前まで冷凍で保管しています。 常温で置かれたものと比べると、開けた瞬間から香りが違います。
脂を活かす商品だからこそ、保管には手を抜けない、ということです。
煮干しと、どう使い分けるか
最後に整理しておきます。
煮干しは、魚そのものの味。 いわし節は、燻した香りが加わった味。 同じいわしでも、別の素材として考えていただくのが分かりやすいと思います。
いつものだしが少し物足りない、けれど煮干しを増やすと臭みが出る。そういうときに、いわし節を少し重ねてみてください。臭みを足さずに厚みだけが出ます。
うるめ節も同じ考え方で作られています。いわし節より軽く、すっきりした方向です。
どちらがご商売に合うかは、実際に炊いてみないと分かりません。 味づくりの正解は、つくり手であるお店の方にしかありません。そのかわり、どの節がどんな原料でどう作られているか、在庫と入荷の見込みについては、いつでもお答えできます。
あわせてご覧ください
・いわし節、うるめ節(牛深産・脂の乗った平子いわしを燻して仕上げた節)
・煮干しいわし(背黒・白タレの違い、産地ごとの性格)
・業務用の花かつおを置いていない理由(当店が扱うもの・扱わないものの考え方)






