味噌汁、うどんつゆ、ラーメンのスープ。煮干しのだしは、昆布やかつお節と並んで、日本の台所と厨房を支えてきた素材です。西日本では「いりこ」と呼ばれることが多く、いりこだしという言い方のほうが馴染み深い方もいらっしゃるかと思います。
ここでは、当店が商品ページでご案内している取り方をもとに、いりこだし(煮干しだし)の取り方と、えぐみを出さないための手順、そして頭とはらわたの下処理の考え方を書きます。当店は業務用の乾物を扱う問屋ですので、料理の指南はいたしません。袋の裏に書いてあることと、当店が長くお伝えしてきたことを、そのまま並べます。
「いりこ」と「煮干し」は、同じものです
はじめに、呼び方の話を片づけておきます。
いりこと煮干しは、別のものではありません。同じものを、地域によって違う名前で呼んでいるだけです。 西日本、とくに瀬戸内から九州にかけては「いりこ」、東日本では「煮干し」と呼ばれることが多いようです。当店の商品名は「煮干しいわし」で統一しておりますが、いりこをお探しの方に届くよう、商品ページにも一言添えてあります。
ひらがなで「にぼし」と書かれる方、漢字で「煮干」と書かれる方もいらっしゃいます。どれも同じものです。呼び方が違うだけで別の商品を探し直す必要はありません。
なお、原材料の表示は「かたくちいわし、塩」です。いりこという表示にはなりません。袋の裏を見て「いりこと書いていない」とご心配なさる方がいらっしゃいますが、魚の名前で書くのが表示の決まりですので、そういうものだとお考えください。
当店がご案内している、基本の量と時間
当店では、こうお伝えしています。
煮干しダシは、基本的に1Lに対し20gの煮干しを使用してダシをとります。ご使用になられる量はお好みにより増減してください。煮干しを水につけている時間は1から2時間ほどが目安です。長く水につけておきますと臭みが出ますのでご注意ください(冷蔵庫で取る場合、一晩を目安にしてください)。頭を取り、腹わたを取るとより澄んだダシを取っていただけます。
要点をまとめますと、次のようになります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 水に対する量 | 水1リットルに対して20g |
| 常温で水に浸ける時間 | 1時間から2時間 |
| 冷蔵庫で取る場合 | 一晩 |
| 浸けすぎ | 臭みが出るため避ける |
20リットルの寸胴なら400gという計算になります。ただし、この数字は出発点です。 味噌汁の下地と、ラーメンのスープでは、求められる濃さがまるで違います。薄ければ増やす、強すぎれば減らす。その加減は、お店ごとに違って当たり前です。
いちばん大事なのは、浸けすぎないことです
「長く浸けるほど濃く出る」と思われがちですが、煮干しに関しては、そうとも限りません。時間をかけすぎると、旨味より先に臭みのほうが出てきます。
ですので、常温で仕込むなら1時間から2時間。前の晩から仕込む場合は、必ず冷蔵庫に入れて一晩まで。夏場に厨房へ出したまま朝まで置くのは、だしの味の面でも、傷みの面でも、おすすめできません。
頭とワタ(はらわた)を取るか、取らないか ― 煮干しの苦味の出どころと下処理
煮干しの苦味や生臭さは、その多くが頭と腹わた(内臓)から出ます。ここを取り除いてから使えば、澄んだ、雑味の少ないだしになります。当店でも「頭と腹をとってご使用いただくことにより苦味の少ないより澄んだ出汁が取れます」とお伝えしています。
では、頭とワタは必ず取るものかというと、そうではありません。煮干しの大きさ、脂ののり、だしの取り方、そしてお店が求める味によって変わります。よくいただくお尋ねですので、取る理由、取らなくてよい場合、取り方、業務用の量での考え方を、順に書いていきます。
苦味とえぐみは、はらわたと頭から出ます
ここからは、一般的に言われている話です。煮干しの腹の中にある黒っぽいはらわたは、苦味のもとになりやすいところです。頭は、えぐみや生臭さが出やすいところです。どちらも、身に比べて、だしに雑味を足しやすいとされています。
もう一つ、脂があります。脂は時間が経つと酸化し、だしに重さやくせを残します。私は、大きさにかかわらず、脂の強い煮干しは頭とワタを外したほうがよいと考えています。
頭とワタを取る理由は、つまるところ「くさいから外す」のひと言です。苦味、えぐみ、生臭さ。どれも、澄んだだしに仕上げたいときには邪魔になるものです。
取るかどうかは、煮干しの大きさで決めます
飲食店・給食施設のための「だし」に関するよくある質問でもお答えしているとおり、頭とワタを取るかどうかは、煮干しの大きさによります。小さな煮干しは頭を取らなくてもえぐみが出にくく、大きな煮干しは頭とはらわたを取ったほうが、よいだしが取れます。
私の目安を申しますと、7cmくらいまでの煮干しは、取る必要はないと思います。それより大きいものは、取ると澄んだだしになります。
| 煮干しの大きさ | 頭とワタ | だしの向き |
|---|---|---|
| 7cmくらいまで | 取らなくてよい | 上品で、やさしい味 |
| 7cmより大きいもの | 取ると澄んだだしになる | 味が強く、はっきりしている |
| 脂の強いもの | 大きさにかかわらず外したほうがよい | 酸化した脂のくせが出やすい |
大きいものほど味が強く、小さいものほど上品な味。そう捉えていただくと分かりやすいと思います。
ただし、これは決まりではありません。大きい煮干しでも、頭とワタは取らないほうがよいとお考えの方もいらっしゃいます。頭もワタも、煮干しの味の一部です。香りや力強さを残したいお店では、丸ごと使われています。どちらが正しいということはなく、それぞれです。
頭とはらわたの取り方
取り方は、むずかしくありません。
- 頭を取る。頭の付け根をつまみ、身から折るようにして外します。
- 身を縦に割る。腹のほうから指を入れ、二つに開くように割ります。
- 黒いはらわたを取り除く。腹の中の黒っぽい部分をつまんで外します。
業務用の量で、下処理をどう考えるか
ただし、業務用の量になると、この下処理が現実的でない場面があります。 1日に何百グラムも使う厨房で、一尾ずつ頭を折ってワタを抜く時間は、なかなか取れません。実際のところ、業務用のお客様で、頭とワタを取って使われている方は多くはありません。
手間のほかに、もう一つ考えておきたいのが重さです。頭とワタを取ると、煮干しの重さは2割から3割ほど減ります。1kgの煮干しなら、だしに使う身は700gから800gほどになる計算です。
量り方にも気をつけたいところです。取る前に量るか、取ったあとに量るかで、同じ20gでも中身が変わります。仕込みの量を決めるときは、どちらで量るかをそろえておくと、日によって濃さがぶれにくくなります。
そこで、実際にはこのように分かれています。
- 澄んだ汁に仕上げたい 頭とワタを取る。お吸い物、上品なうどんつゆなど
- 濃さと香りを取りたい 丸ごと使う。ラーメンのスープ、味噌汁など
- 手間を減らしたい 苦味の少ない煮干しを選ぶことで、下処理を省く
三つめの考え方が、実は費用対効果に効いてきます。もともと苦味の少ない煮干しを選べば、下処理の手間そのものを減らせるためです。
下処理を減らすなら、煮干しの選び方で
手間と重さの減り方を考えると、もともと苦味の少ない煮干しを選ぶのが近道です。当店で扱っているもののうち、苦味の少なさでお選びいただけるのは次のとおりです。
| 煮干し | 当店の説明 |
|---|---|
| 煮干しいわし(瀬戸内) | 白タレ。身が柔らかく、苦味がとても少ない上品なだし |
| 煮干しいわし(大分) | 別府湾の白口。身が柔らかく、苦味の少ない上品なだし |
| 煮干しいわし(長崎) 白タレ | 身が柔らかく、苦味の少ない上品なだし |
| 煮干しいわし(氷見) | 苦みは少なめで、魚本来の味が感じられる |
| 煮干しいわし(牛深) 大羽 | 腹が割れているぶん、はらわたが取れていて、身の割合が多い |
白タレと呼ばれる煮干しは、青口(背黒)に比べて身が柔らかく、苦味が出にくいです。小さめのものであれば、頭もワタも付けたままお使いいただけます。
牛深の大羽は、見た目が整っていません。腹が割れているものが多いためです。姿を重んじる目で見れば欠点になりますが、腹が割れているぶん、はらわたが取れています。身の割合が多くなりますので、だしを取る目的では不利になりません。
取らないまま、苦味を抑えるには
頭とワタを付けたまま使う場合でも、苦味やえぐみを抑えるためにできることがあります。
- 冷蔵庫で水出しする。冷蔵庫で一晩かけて水出しする取り方なら、基本的に頭とワタは取らなくてよいと私は考えています
- 浸けすぎない。常温なら1時間から2時間、冷蔵庫なら一晩まで。長く浸けると臭みが出ます
- 煮すぎない。長くぐつぐつ煮込むほど、えぐみが出やすくなります(次の節に書きました)
- 脂の強いものは外す。ここだけは、大きさにかかわらず外したほうがよいと思います
- 冷蔵で保管する。脂の酸化を遅らせることが、だしの雑味を減らすことにつながります
どこまで気にするかは、人によります。お店の味に合わせて、取るところと取らないところを決めていただければと思います。冷蔵で保管している理由は、こちらに書きました。
甲殻類アレルギーと、頭・はらわた
頭とワタには、苦味のほかにもう一つ、気をつけていただきたいことがあります。内臓を取らずに丸ごと乾かした煮干しには、多くはありませんが、魚が食べたエビやカニが腹に残っていることがあります。天然のものを丸ごと乾かして使う以上、避けようのない性質です。
甲殻類のアレルギーに対応されるメニューでお使いになる場合は、頭とはらわたを取り除いてからお使いいただくのが確実です。これは、当店の煮干しの商品ページすべてでお伝えしていることです。
よくいただくお尋ね
Q. 頭とワタを取ってある煮干しは、扱っていますか?
A. 扱っていません。一尾ずつ手で外す、かなり特殊な仕事になるためです。取るぶん重さも2割から3割減りますので、歩留まりと手間賃を合わせると、お値段がずいぶん高くなってしまいます。
Q. 大きい煮干しは、必ず頭とワタを取らないといけませんか?
A. いいえ。取ると澄んだだしになりますが、取らないほうがよいとお考えの方もいらっしゃいます。香りや力強さを残したいなら、丸ごと使うのも一つの選び方です。脂の強いものだけは、外したほうがよいと思います。
Q. 水出しでも、頭とワタは取ったほうがよいですか?
A. 人によりますが、冷蔵庫で水出しする場合は、基本的に取らなくてよいと考えています。
Q. 取ると、使う量は変わりますか?
A. 頭とワタを取ると、重さは2割から3割ほど減ります。取る前に量るか、取ったあとに量るかをそろえておくと、日によって濃さがぶれにくくなります。
煮出すときは、煮すぎないことです
時間がないときは、水と煮干しを鍋に入れて火にかけます。一般的には、沸いたら弱火にして5分ほど、と言われています。長くぐつぐつ煮込むほど、えぐみが出やすくなります。
ただし、この時間はあくまで目安です。 長く煮出せば、煮干しの香りと味は、そのぶん強く出ます。その濃さを好まれる方も、実際にいらっしゃいます。
「煮すぎるとえぐみが出る」というのは、澄んだ、すっきりした汁に仕上げたい場合の話です。煮干しの香りが前に出るスープをお作りになりたいのでしたら、長めに煮出すことが間違いということにはなりません。
味の好みは、人によって違います。 濃いほうがよいという方、すっきりしたほうがよいという方。どちらが正しいということはありません。上の時間から始めて、お店の味に近づくほうへ動かしていただければと思います。
煮干しのだしは、コーヒーと同じで好みが分かれます。濃いのが好きな方も、薄いのが好きな方もいらっしゃいます。どちらも煮干しのだしが好きなことに、変わりはありません。
出汁袋(だしパック)をお使いになると、引き上げが楽になります。当店でも「そのままご使用になるか、出汁袋に入れて煮出してください」とお伝えしています。粉になった煮干し粉をお使いの場合は、袋がないと漉すのが大変ですので、袋に入れる形が向いています。
煮干しは、産地によって性格が違います
同じ「煮干しいわし」でも、獲れた海と干し方によって、出るだしがかなり違います。当店で扱っているものを、商品ページの記述から並べます。
| 産地 | だしの性格 |
|---|---|
| 瀬戸内産 | 白口のかたくちいわし。上品な味わい |
| 長崎産 白タレ | 身が柔らかく、苦味が少ない。上品なだし |
| 牛深産(熊本) | 長崎産と比べると、荒々しい力強さがある |
| 氷見産(富山) | 乾燥がよく脂分が少ない。長崎の上タレに近い上品なだし |
| 大分産 | 幅広い料理に使いやすい、標準的な煮干し |
氷見産について、一つ書き添えておきます。氷見の煮干しは乾燥がよく、姿がきれいなまま干し上げてあります。 乾燥させると身はもろくなりますので、形を保ったまま強く乾かすのは、技術の要る仕事です。そして乾燥がよいということは、同じ1kgでも入っている尾数が多いということでもあります。だしを取る立場からすると、これは費用対効果に直結します。
牛深と長崎の違いも、よくお尋ねいただきます。当店の表現をそのまま申しますと、「牛深の荒々しさに比べ、長崎産は上品な感じの出汁」です。どちらが上ということではなく、合わせる料理が違うとお考えください。
産地ごとの違いを、もう少し詳しく書いた記事もあります。
脂の多い煮干しが敬遠される理由
煮干しを選ぶときに「脂が少ないもの」が好まれるのには、理由があります。脂は時間が経つと酸化して、風味が落ちるためです。だしにしたときに、独特の重さが出ることもあります。
ただ、これも一面的な話ではありません。節にすると、脂の多いものが美味しく感じられるという逆の話もあります。詳しくはこちらに書きました。
保管 ― 当店は冷蔵をおすすめしています
煮干しの賞味期限は冷蔵で半年と表示しています。ここで、一つご説明しておきたいことがあります。
煮干しは乾物ですので、常温でも置いておけます。それでも当店が冷蔵をおすすめしているのは、味を保つためです。 当店では、こうお伝えしています。
乾物ですが、美味しさを保つ為に当社では冷蔵を推奨します。(冷凍がベストです)
当店自身も、そのように扱っています。営業冷蔵庫では-25℃以下、出荷直前まで-15℃で保管しています。 届いてからの保管も、できれば冷蔵庫か冷凍庫へ。それが難しい場合は、袋の口をきちんと閉じて、高温多湿と直射日光を避けてください。
乾物の保管については、こちらにまとめてあります。
煮干しだけでは足りない、と感じたら
煮干しのだしは、香りと厚みが持ち味です。そのぶん、単独では味の輪郭が強く出すぎることがあります。昆布と合わせると角が取れて、まとまりが出ます。
時間が取れないときは、煮干し粉という手もあります
下処理も、浸ける時間も取れない。そういう厨房もあります。その場合は、煮干し粉という選び方があります。
粉ですので、浸けておく時間が要りません。かわりに、煮干しそのものが汁に残りますので、澄んだ汁には向きません。 濁ってよいスープや、味を濃く出したい料理向けです。粉の選び方は、こちらに書きました。
まとめ
いりこだし(煮干しだし)で押さえるところは、多くありません。
- 水1リットルに20gから。 あとはお好みで加減する
- 浸けるのは1時間から2時間。 冷蔵庫なら一晩まで。浸けすぎると臭みが出る
- 頭とワタ(はらわた)を取ると澄んだだしになる。 7cmくらいまでの小さな煮干しは取らなくてよい。脂の強いものは外す。取れない場合は、苦味の少ない煮干しを選ぶ
- 煮出すときは煮込みすぎない
- 保管は冷蔵か冷凍で。 賞味期限は冷蔵で半年
どの産地を選ぶかは、お店の味に合わせて動かしてよいところです。当店は原料をお納めする問屋ですので、味づくりの指南はいたしません。そのかわり、産地・サイズ・原材料・在庫の見込みは、商品ページにそのまま書き出しています。上の目安から始めて、お店の味に近づくほうへ動かしていただければと思います。






