訪日外国人のお客様が増えるなか、「だし」の魅力をどう伝えるかは、飲食店にとって新しい課題になっています。うま味そのものを言葉で説明するのは、日本語でも難しいものです。この記事では、味を語るのではなく素材で伝えるという考え方を軸に、業務用の現場で使える工夫をご紹介します。
「うま味」は説明しにくい。だから素材で伝えます
だしの旨みは、味覚として説明しても伝わりにくい繊細な感覚です。「うま味」という言葉自体は海外でもかなり知られるようになりましたが、それが何の味なのかまで伝わっているとは限りません。
そこでおすすめしたいのが、「何から取っているか」を先に伝えるという順番です。素材と、その作られ方をシンプルな言葉で示すほうが、味の形容よりずっと早く伝わります。
だしの素材は、魚と海藻ときのこです
日本のだしの材料は、大きく分けると次の3つです。
- 魚 … かつお節、煮干し、あご(トビウオ)、さば節、うるめ節、いわし節など
- 海藻 … 昆布
- きのこ … 干ししいたけ
この3つに分けて示すだけで、初めての方にも輪郭が伝わります。魚を乾かして削ったもの、海の藻を干したもの、きのこを干したもの。どれも「乾かして旨みを凝縮させたもの」という共通点があります。
説明しやすい素材(1)かつお節
かつお節は、話のタネにしやすい素材です。当店で扱っている鰹枯節厚削りは、枯節(カビを付けて寝かせ、熟成させたかつお節)を厚削りにしたものです。カビを積極的に利用して作る食品は世界にもありますが、魚でそれを行うものは多くありません。
酸味が取れて、荒節をそのまま厚削りにしたかつお厚削りと比べると、段違いに美味しくなります。ただし生産工程が複雑です。「手間がかかっている理由」を添えられる素材は、説明の材料としても強みになります。
説明しやすい素材(2)あご(トビウオ)
あごはトビウオのことです。「飛ぶ魚からだしを取る」というだけで、興味を持っていただけることが多い素材です。
ここで押さえておきたいのが、「あご煮干し」と「焼きあご」はまったく別のものだということです。製法が違います。
あご煮干しは、その名のとおりトビウオを煮干しにしたものです。煮干しにしているのでマイルドで、クセが少なく使いやすい素材です。
焼きあごは、生のトビウオを炭火でじっくり焼いて、そのあと乾燥させたものです。炭火焼き独特の香りがあり、クセは少し強めですが、その香ばしさがメリットになります。当店では長崎平戸産をメインに扱っています。
あごだしは、トビウオ特有の少し甘みがあるだしが特徴です。日本ではあごだし=ごちそうのだし、というイメージがあるようで、お店の看板メニューに使われることの多い素材です。
説明しやすい素材(3)昆布
昆布は海藻です。海の中で育ったものを干してだしを取る、と説明すると、驚かれることがあります。
昆布は産地の名前がそのまま商品名になっているのも特徴です。利尻昆布のように、産地の名前で呼び分けます。なお利尻昆布は、礼文島・利尻島産が「島もの」と呼ばれ、宗谷産は比較的求めやすくなっていますが、これは入るタイミングの違いによるもので、品質はそれほど変わりません。
「だしがら」が出ることは、弱点ではありません
外国のお客様に限らず、いま増えているのが「何が入っているのか知りたい」というご要望です。ここは、天然の素材でだしを取っているお店にとって、むしろ説明しやすいところです。
市販の顆粒だしは、だしを取ったあとに加工してフリーズドライしたものですので、水に溶けてだしがらが出ません。当店の粉末は、原料そのものを粉砕しただけですので、水には溶けません。粉そのものは残りますし、だしがらは出ます。気にされないならそのままで結構ですが、気にされるなら濾していただきたい、というのが当店の考えです。
あごだし混合だしやかつお椎茸昆布だしを、だし袋に入れず粉のままバラで袋詰めしているのも、同じ理由です。「だしパックは中身が見えないので心配」という声にお応えするためで、袋を開ければ何が入っているかを目で見て確かめていただけます。
なお当店の粉末は、原料をそのまま粉にしただけのものが中心ですが、しじみ粉末のように添加物を使用しているものもあります。原材料は各商品ページに記載しておりますので、お客様へのご説明が必要な場合はそちらをご確認ください。
魚の骨に慣れていないお客様には
だしとは少し離れますが、インバウンド対応でご相談をいただくことの多いのが、魚の骨です。
当店では骨取り・骨なし魚切り身を14種類扱っています。サバ、ぶり、アジ、縞ほっけ、サケ、マス、赤魚、カレイ、ホキ、メバル、メルルーサ、助宗ダラ、白糸ダラ、サゴシです。「骨なし」「骨抜き」「骨取り魚」は、呼び方が違うだけで同じもので、給食や介護食の現場では「骨取り魚」と呼ばれることが多くなっています。
ひとつ申し添えておくと、骨付きと骨なしで、魚そのものは変わりません。違うのは骨を取る工程が入っているかどうかで、その一工程が並大抵ではありません。骨を気にせず召し上がっていただきたい場面では、選択肢のひとつになります。
メニューでの見せ方
現場でできる工夫としては、次のようなものがあります。
- メニュー表に、簡単な英語表記と写真を添える
- だしの試飲を用意して、味覚でも体験していただく
- 素材の産地名を添える(長崎平戸産のあご、北海道産の昆布、など)
- だしを取ったあとの素材そのものを見ていただく
特別なメニューに手のかかった素材を使い、その理由を短く添える。それだけでも、料理の受け取られ方は変わります。
ひとつだけ、避けたほうがよいこと
だしを説明するときに、健康や効能に結びつけた言い方は避けたほうが無難です。日本語のメニューでも同じですが、外国語に訳した瞬間に意味が強くなってしまうことがあります。素材と製法という事実だけを伝えるほうが、結果的に信頼されます。
まとめ
だしの魅力を外国のお客様に伝えるときは、味を形容するより、何から取っているか、どう作られているかを伝えるほうが早く届きます。魚・海藻・きのこという3つの分け方、かつお節や焼きあごの作られ方、そして「中身が見える」ということ。どれも特別な準備なしに、今日から使える材料です。
素材そのものについて詳しくお知りになりたい場合は、各商品ページをご覧ください。
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